PFASのリスクを減らすために:泡消火剤交換の現状と東京都の補助事業


「PFASの原因でよく泡消火剤って聞きますが、これは今でも使われているんですか。」
「確かに気になりますね。では、解説します。」





まずは自己紹介
弊社、株式会社メイプル・リンクは、創業33年のセントラル浄水器メーカーです。セントラル浄水器『ソリューヴ』の企画・製造・販売を行なっております。長年セントラル浄水器の販売を行なっている弊社が、気になる疑問についてお応えします。
PFASと泡消火剤
一部の物質が有害とされる有機フッ素化合物の「PFAS」を含む泡消火剤が漏れ出さないよう、東京都は、今年度から取り替えに必要な費用の補助を始めていますが、この1年で申請があったのは数件にとどまることが都への取材でわかりました。
NHK「PFAS含む泡消火剤 都が取り替え費用補助も申請は1年間で数件」より引用
全国の商業施設やマンションなどの駐車場で、発がん性が指摘される有機フッ素化合物「 PFASピーファス 」を含む泡消火剤の交換が進んでいない。河川への流出事故も起きており、政府は今年度、保管場所や在庫量の把握を進め、管理者に適正な取り扱いを求める方針だ。
読売新聞「商業施設やマンション駐車場に残る「永遠の化学物質」PFAS…泡消火剤の交換費用がネックに」より引用
参照:東京都 全国初!! PFOS(ピーフォス)含有泡消火薬剤を交換する費用の補助を開始します!
商業施設やマンションの駐車場に設置された泡消火剤。その中には、発がん性が指摘される有機フッ素化合物「PFAS」が含まれているものが多く、環境や健康へのリスクが懸念されています。特に、PFASの一種である「PFOS」や「PFOA」は有害性が指摘され、国内では2021年までに製造や輸入が原則禁止されました。しかし、古い泡消火剤の交換は進まず、流出事故も発生しています。こうした状況を受け、東京都は全国初の補助事業を2024年度から開始しましたが、申請件数は想定を下回っています。
PFASの基本特性
PFASは、1万種類以上ある有機フッ素化合物の総称です。水や油をはじき、熱に強い性質を持つため、フライパンのコーティング、はっ水スプレー、そして泡消火剤などに広く使用されてきました。特に、泡消火剤では、PFOSやPFOAが優れた消火性能を発揮し、大きな火災が起きる可能性のある施設で重宝されてきました。しかし、PFASは自然界でほとんど分解されないため、「永遠の化学物質」と呼ばれ、人体や環境中に長期間残留するという問題があります。
健康と環境への影響
PFOSとPFOAは、健康への悪影響が指摘されています。2023年、世界保健機関(WHO)の下部組織である国際がん研究機関は、PFOAを「人に対し発がん性がある」、PFOSを「発がん性の可能性がある」と分類しました。ただし、発がん性の強さや摂取量に応じた具体的な影響については、科学的知見が十分に確立されていないのが現状です。このため、各国の規制基準は異なり、例えば米国では水質基準が1リットル当たり4ナノグラムと厳格であるのに対し、日本では50ナノグラムとされています。
環境面では、PFASが河川や土壌に流出することで、生態系や水道水への影響が懸念されます。2024年12月、京都市のホームセンターの地下駐車場で、PFAS含有泡消火剤が誤噴射され、近くの川に流入する事故が発生しました。この事故では、下流でPFOSとPFOAが1リットル当たり合計49ナノグラム検出され、国の暫定目標値(50ナノグラム)をわずかに下回りましたが、流出リスクの深刻さを浮き彫りにしました。
京都市のホームセンターの地下駐車場で昨年12月、天井のスプリンクラーが軽トラックの荷台の木材と接触して破損し、泡消火剤が誤って噴射された。大量の白い泡が店舗外にあふれ出た。
消防隊員らが土のうを積んで周囲への漏出を止めようとしたが、一部は近くの川に流入。京都府が翌日、下流で検査したところ、PFASの代表的物質、 PFOSピーフォス と PFOAピーフォア が1リットル当たり計49ナノ・グラム検出された。
両物質は健康への悪影響を指摘され、2021年までに国内での製造や輸入が全面禁止された。ホームセンター側は規制前に泡消火剤を購入しており、規制物質を含有していることを知らなかった。今回の流出では国の暫定目標値(1リットル当たり50ナノ・グラム)をわずかに下回ったが、府環境管理課の峯勝之課長は「府も泡消火剤がどこに保管されているか実態を把握していない。流出を察知していない事例がほかにもあるかもしれない」と懸念する。
読売新聞「商業施設やマンション駐車場に残る「永遠の化学物質」PFAS…泡消火剤の交換費用がネックに」より引用

「えっ…。50ナノグラムの目標値で、49ナノグラムの検出ですか…。」
泡消火剤に含まれるPFASの実態
どこに存在するのか
PFAS含有泡消火剤は、主に商業施設、マンション、工場などの駐車場に設置された固定式泡消火設備に使用されています。これらの設備は、火災時に迅速に消火できるよう設計されていますが、老朽化やいたずら、誤操作による漏出リスクが問題視されています。特に、2021年以前に製造された泡消火剤には、PFOSやPFOAが含まれているケースが多く、国内での規制強化後も交換が進んでいないのが実情です。
政府の調査によると、2020年度時点で全国のPFOS含有泡消火剤の在庫量は338万8000リットルでしたが、2024年度には185万リットルに減少しました。この減少は、消防署、空港、自衛隊施設などの公共施設での交換が進んだ結果です。しかし、民間施設、特に駐車場では在庫量が80万5000リットルから96万2580リットルに増加しており、交換の遅れが顕著です。
流出事故の例:京都市のケース
前述の京都市の事故は、PFAS含有泡消火剤のリスクを象徴する事例です。ホームセンターの地下駐車場で、軽トラックの荷台が天井のスプリンクラーに接触し、泡消火剤が誤噴射されました。大量の白い泡が店舗外に溢れ出し、フェンスを越えて近くの川に流入。消防隊員が土のうで拡散を防ごうとしましたが、一部は下流に流れ込み、PFASが検出されました。このホームセンターは、規制前に購入した泡消火剤を使用しており、PFAS含有の事実を知らなかったとされています。こうした事例から、在庫の実態把握と適切な管理が急務であることがわかります。

「結構多くの場所で使われているんですね。」
泡消火剤交換が進まない理由
高額な交換費用
泡消火剤の交換が進まない最大の要因は、コストの高さにあります。日本消火装置工業会によると、泡消火剤の交換には、設備工事費を含めて1000万円以上の費用がかかります。さらに、工事期間中は駐車場を閉鎖する必要があり、商業施設やマンションでは収益や住民の利便性に影響が出るため、交換に二の足を踏む事業者が多いのです。東京都の調査でも、交換に関する問い合わせは100件以上あるものの、実際の申請は数件にとどまっています。
交換義務の不在
現在の法規制では、PFOSやPFOAを含む泡消火剤の使用自体は禁止されておらず、交換は推奨されるものの義務ではありません。このため、事業者にとって交換の優先度が低くなり、コスト負担を避ける傾向にあるのです。特に、民間施設では、公共施設のような予算や管理体制が整っていない場合が多く、交換への動機付けが不足しています。
認識不足と情報不足
一部の事業者やマンション管理組合では、泡消火剤にPFASが含まれていること自体を知らない場合があります。また、PFASの有害性や流出リスクに関する情報が十分に周知されていないことも、交換の遅れに繋がっています。東京都の担当者は、「古い泡消火剤に有害物質が含まれていることへの理解は進んでいるが、実際の行動には結びついていない」と指摘しています。

「コストが高い上に義務ではないのですね…。」
東京都の全国初の補助事業
事業の概要
こうした課題に対応するため、東京都は2024年6月27日、全国初となるPFOS含有泡消火剤の交換費用補助事業を開始しました。この事業は、都内の駐車場を有する事業者やマンション管理組合などを対象に、PFOS非含有の泡消火剤への交換を促進するものです。補助対象となる経費には、以下の項目が含まれます:
- PFOS非含有泡消火剤の購入・据え付け費用
- 泡消火剤貯蔵槽や配管の洗浄費用
- 撤去したPFOS含有泡消火剤の処理費用
補助金の額は、事業者の規模によって異なります。大企業には補助対象経費の1/2(上限500万円)、中小企業やマンション管理組合などには3/2(上限700万円)が支給されます。補助を受ける条件として、対象設備に一般社団法人日本消火装置工業会の発行する「PFOS含有泡消火薬剤管理台帳登録済証」が貼布されていること、2025年10月31日までに検査と実績報告を完了することが求められます。
事業の成果と課題
東京都は、この補助事業を通じて、都内のPFOS含有泡消火剤の排出リスクを低減し、環境保全を推進する方針です。しかし、2024年度の1年間で、補助の申請件数は数件にとどまり、想定を大きく下回りました。一方で、交換に関する問い合わせは100件以上寄せられており、関心の高さが伺えます。東京都の担当者は、「交換に多額の費用がかかることや、工事による駐車場の長期閉鎖が、事業者のためらいの要因になっている」と分析しています。
また、補助事業の周知不足や、申請手続きの煩雑さも、申請件数の少なさに影響している可能性があると考えられます。東京都は、2025年度もこの事業を継続し、PFASのリスクや補助制度のメリットをさらに周知することで、交換を加速させる計画です。

「なるほど…。」
政府の取り組みと今後の規制強化
在庫実態の把握と管理強化
国レベルでも、PFAS含有泡消火剤の管理強化が進められています。環境省は2024年度から、消防署が保有する消火設備の情報を活用し、施設管理者に泡消火剤の保管状況を確認する取り組みを開始しました。これにより、泡消火剤の商品名やメーカー名からPFOSやPFOAの含有を特定し、適切な取り扱い方法を指導します。例えば、火災で使用した泡消火剤の残渣を排水溝に流さず、専門業者に回収を依頼するよう促しています。
従来の調査は、民間業者からの情報提供に依存していたため、把握が不十分でした。新しい取り組みにより、より正確な在庫量の把握と、流出リスクの低減が期待されるのです。環境省の担当者は、「マンションや職場など身近な場所にPFASが保管されている可能性がある。管理者は含有状況を確認してほしい」と呼びかけています。
水質基準の導入
PFASへの規制はさらに強化される予定です。2026年4月から、PFOSとPFOAは水道法上の「水質基準」の対象となり、水道事業者は定期的な検査を義務付けられます。基準値である1リットル当たり50ナノグラムを超えた場合、給水停止や水質改善が求められます。同様の基準は、ミネラルウォーターなどの飲料水にも導入され、飲料メーカーにも検査と品質管理が義務付けられる予定です。これにより、PFASの環境中への拡散防止と、飲料水の安全確保が図られます。

「検査が義務付けられると変わりますよね。」
今後の課題と解決策
コスト負担の軽減
泡消火剤の交換を加速するには、コスト負担の軽減が不可欠です。東京都の補助事業は一歩前進ですが、上限額(500万円または700万円)では、1000万円以上かかる交換費用の全額をカバーできません。補助額の増額や、国の補助制度の導入が求められます。また、工事期間中の駐車場閉鎖による損失を補填する支援策も、事業者の参加を促す有効な手段となるでしょう。
情報発信と意識啓発
PFASのリスクや補助事業の存在を、事業者や住民に広く知らせる必要があります。東京都は情報発信を強化し、マンション管理組合や商業施設の管理者向けに説明会を開催する計画です。さらに、PFAS含有泡消火剤の特定方法や、交換手順を簡潔にまとめたガイドラインの配布も効果的です。こうした取り組みを通じて、交換の必要性とメリットに対する理解を深めることが重要です。
法規制の強化
現在の推奨ベースの交換促進では限界があります。PFOSやPFOAを含む泡消火剤の使用を段階的に禁止する法規制や、交換期限の設定が、交換の加速に繋がる可能性があります。ただし、民間事業者への負担を考慮し、規制と支援策を組み合わせたアプローチが求められます。諸外国の事例を参考に、日本の実情に合った規制枠組みを構築することが、今後の課題です。

「確かに。」
まとめ:環境と健康を守るために
PFAS含有泡消火剤は、商業施設やマンションの駐車場に潜む「永遠の化学物質」として、環境と健康に潜在的なリスクをもたらしています。東京都の全国初の補助事業は、交換促進に向けた重要な一歩ですが、高額なコストや義務の不在により、申請件数は限定的です。政府の在庫把握や水質基準の導入も進む中、コスト軽減、情報発信、法規制の強化が、今後の鍵となります。
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「いかがでしたでしょうか。泡消火剤交換の現状と東京都の補助事業について解説しました。」


「はい。よく分かりました。」
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